カラスヤサトシが作った「自分が勝てるゲーム」
11月 9th, 2008『弾言』刊行記念トークショーのあと、家人が「小飼さんが言っていた『自分のゲームを作る』って、具体的にどういうことなの?」と聞いてきた。ここで「俺を見ろ!」と言うとかっこいいのだが、どうも説得力に欠ける。
何かいい例がないかと思ったら、トークショーと同じ日に創刊された『good! アフタヌーン 2008年 12月号』に面白い記事が載っていた。
「喪男(もだん)の社会学」というこの記事は、漫画家のカラスヤサトシ氏と社会学者の千田有紀氏の対談+コミック。カラスヤサトシ氏は、自分の生活をネタにした自虐ギャグが持ち味で、私もファン。月刊『アフタヌーン』も彼のコーナーから読むことが多かったりする。
(同記事 p.680)
千 ちなみにカラスヤさんは02年に上京されるまで、どんなお仕事を。
カ ビルの守衛なんかをしてました。派遣を辞めてから病院の守衛とかをしてました。知人の会社で月給5〜6万円。このままではあかんとバイトを辞めて上京してマンガを描く生活です。
千 なんで東京ではバイトをしなかったんですか。
カ 大阪時代にさんざん「夢とバイトの両立」に失敗する人たちを見てきたので、「このままではマンガ家になれへんぞ、と悟ったんです。このままではずっと「バイトしながら夢を追う人」というパーソナリティが定着してしまいそうで。意識から先にマンガ家になってしまおうと。
(中略)
千 しかし「働くのが偉い」っていう価値観が支配する世の中で、カラスヤさんの「バイトはしない」という選択は、とっても思い切ったものに見えますよ。だってワーキングプアが世間の同情を得られるミソは、「働いているのに、こんなに貧しいんです」「ワーキング」なのに「プア」ってところだもの。働き手の「努力」が見えるからこそ、世の中に受け入れられているんです。だけどフラフラしていたり働いていなくて貧しい人は、とたんに「自己責任」と突き放されます。自己責任チームに括られてしまいそうなカラスヤさんは、どうやって世間の目を乗り切っていたんですか。
カ 毎日部屋の模様替えをしたり、カーテンを開け閉めしたり、僕よりハードスケジュールな隣んちの犬を観察したり……。道行くカップルの会話に聞き耳を立てて、「俺ならこう切り返す!」と即答できるレベルに至るぐらい、感覚を研ぎ澄ませて生きていました。
ほんと、私もそうだけど、働くということをついつい言い訳に使ってしまう。彼は働くのを辞めて時間を捻出することで、「自分の生活から笑いを取る」というゲームを作れたということなんだろう。