オープンコースウェアの国際会議
4月 23rd, 2006大学の講義資料をインターネット上に無料公開していこうというオープンコースウェア(OCW:Open CourseWare)。2001年にMITで始まったこのプロジェクトは世界各地に広まり、4月20日には京都大学で国際会議が開催された。国際会議の開催と同時に、日本OCW連絡会は、日本OCWコンソーシアム(JOCW)として再出発し、参加大学、公開コースも大幅に増やしたいという意気込みを見せる。
しかし、OCWを持続的に実現していくための課題も山積。まず、コンテンツを公開するためのコスト。JOCWによれば、すでに存在する講義コンテンツの発信自体にはそれほど時間もかからないようだが、コンテンツ内で利用している著作物の著作権処理に時間とコストが食われているようだ。日本のOCWにおいては、こうした作業を行うためのお金がとにかく不足しているという現実がある。MITはヒューレット財団など外部から豊富な資金援助を受けているが、日本は法整備や税制の違いにより、それが難しいという。予算はあくまで各大学の持ち出し、悲しいかな予算はMITの1%程度とのこと。
資金の違いも大きいのだが、オープンコースウェア、ひいてはネット時代の情報公開に関する日米の考え方には大きな差があるように思う。日本の大学からの発表の多くは、著作権処理の煩雑などについて述べていた。ある程度パネルディスカッションが一段落したところで(正直、日本の大学関係者のパネルディスカッションはイマイチ盛り上がりに欠けた)、国際会議を聴講していたある市会議員の方は「結局、日本の大学にとってオープンコースウェアのバリューは何なんでしょう?」という質問を投げかけていた。JOCW側の目的として「自由かつ制約のない「知」へのアクセスを促進すること」とあるが、私も国際会議を聴講していて、この市会議員と似た印象を受けた。日本の大学は、社会貢献や大学の広報的価値を強調していたが、これだと苦労して公開のための作業をしなければならない教員のモティベーションも上がらないのではないかと心配になる。確かに、学生の講義選択や受験生の志望校選択の参考にはなりそうだけど、コストに見合うだけのバリューを得られるのだろうか。
MITやユタ州立大学のOCWも、当初の構想ほど爆発的な人気を博しているというわけではないようだが、それでも世界各地に78カ所のミラーサーバーを設置して講義資料を発信。アフリカなどにおける自習者も順調に増えているようだ。Tufts大学の医学コースなどは、手術の手順もビデオなどの教材で丁寧に見せており、学習意欲のある学生や医師にとってすばらしい教材なのではないかと思う(専門家から見てどうなのか私には判断できないが)。
ただ、米国の大学が掲げる「グローバルに知を広める」というスローガンの根幹にあるものが、正直にいって何であるのかはよくわからない(というか、もっと利己的な理由を勘ぐりたくなる)。MITの宮川繁教授に「これは米国の国家戦略なんでしょうか?」と馬鹿正直に聞いてみたが、そういう流れの話ではないというお答え(ただ、やはりフランスなどはそういう疑いを持っているそうだ)。OCW誕生の背景には、90年代後半に米国で盛り上がった知財保護ムーブメントに対する反発もあるという。クリエイティブ・コモンズと同じく、「知」を囲い込みすぎることで、人類全体としての知的活動が停滞する危機感。まあ、米国の大学がどういう意図を持っているのであれ、OCWによって教育・研究機関における米国の影響力が強まるという効果は間違いなくあるだろう。すでに、MITのOCWを翻訳して公開している中国のCOREや台湾のOOPSも活発に活動している。OCWの講義を聴講した学生が、米国の大学を目指すというケースはこれから増えていくのだろうなあ。OCWがグローバルな知の向上に結びつくのかどうかは今のところ何ともいえないが、国際的な大学の認知度・影響力向上のためのツールとして、今後OCWが大きな役割を果たすことは間違いないように思う。